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肝臓疾患の診療について
概要について
慢性肝炎(B 型肝炎、C 型肝炎、自己免疫性肝炎)・肝硬変に対する治療、肝臓がんに対するラジオ波焼灼療法を含む集学的治療を行っています。最近ではメタボリック症候群と関連が示唆されている 脂肪肝・MASLD/MASH(代謝異常関連脂肪性肝疾患/ 同 肝炎)の診断も行っています。肝疾患は慢性的に進行することが多く、長期にわたる治療が必要となります。最近はご高齢の患者さんも多く、おひとりおひとりの精神的・身体的状況や社会的背景を把握することが重要になってきています。有効な治療を行いながらも日常生活をいかに制限や苦痛の少ない充実したものにしていけるか、一緒に考えていきましょう。
各治療について
1.B型肝炎、C型肝炎に対する抗ウイルス療法
B型肝炎、C型肝炎はそれぞれB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)が感染して起こる病気です。
B型肝炎の治療では、HBVは一度感染すると体内から完全に排除することが難しいため、肝炎を抑えて肝硬変・肝がんに進まないようにすることが治療目標となります。主な抗ウイルス療法としては注射のインターフェロン(IFN)と飲み薬の核酸アナログがあります。IFNは抗ウイルス作用、免疫調整作用、細胞増殖抑制作用などの生物活性を有する薬剤で、週1回の注射を48週間続ける治療が標準的です。副作用としては発熱、関節痛などのインフルエンザ様症状が挙げられます。核酸アナログはHBVが増殖するために必要な逆転写酵素を競合的に阻害する薬剤で、エンテカビル、テノホビルなどがあります。IFNと比較し副作用が少なく有効な症例が多いですが、長期的な継続治療が必要な薬剤です。
C型肝炎の治療では、HCVの体内からの排除が目標となります。以前はIFNを用いた治療が主でしたが、近年は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という内服薬が用いられることが多く、肝機能、ウイルスの型、過去の治療歴の有無などから薬剤が選択されます。DAAでは初回治療の方ですと95%以上のウイルス駆除効果が期待でき、ご高齢の方や他の病気をお持ちの方でも副作用少なくウイルス治療ができるようになりました。
2.肝硬変の治療
肝硬変とはB型・C型肝炎ウイルス、飲酒、肥満、自己免疫などにより生じる慢性的な肝障害により肝臓が徐々に固くなり、正常の機能を失った状態を指します。肝硬変初期には症状は出ませんが、肝硬変が進行するとおなかの張り(腹水)や全身のむくみ(浮腫)・目や皮膚の黄染(黄疸)・意識の低下(肝性脳症)などが起きます。血液検査では血小板の低下や線維化マーカーの上昇、CTや腹部超音波検査では肝臓の変形が認められ、これらを総合的に評価して診断を行います。
肝硬変そのものの治療は現時点では難しく、治療目標は主に合併症のコントロールになります。治療の基本は栄養療法であり、塩分制限などの栄養指導や低栄養を改善する分岐鎖アミノ酸製剤の投与を行います。肝硬変の合併症としては、上記の腹水貯留や肝性脳症の他に肝がんや食道静脈瘤の発生等があげられます。腹水貯留が認められる場合は塩分制限や利尿剤投与を行い、腹水貯留がひどくなる場合には入院の上、腹水を抜いたり、抜いた腹水を濃縮して体内に戻す治療(CARTといいます)を行います。また肝性脳症は脱水や便秘、感染が原因となりますが、アミノ酸製剤の点滴や合成二糖類・抗生剤(リファキシミン)の内服で治療します。また当院では定期的に腹部超音波検査や腹部CT撮影、上部消化管内視鏡検査を行い、肝がんや食道静脈瘤の早期発見・治療に努めております。
3.急性肝炎や急性肝障害の診断と治療
急性肝炎とは何らかの原因で肝細胞が破壊されて、肝機能に影響を与える病気です。初期には症状が出ずに気づかれない場合もありますが、健康診断で肝機能異常を指摘されたり、風邪のような症状(発熱、倦怠感や嘔気)で医療機関を受診された際に肝機能異常を指摘され受診する場合などがあります。
肝障害の原因が腫瘍や胆石による胆道閉塞による(閉塞性黄疸)ものでないことを確認した後、肝障害に関する網羅的な血液スクリーニング検査や必要な画像検査を進めていきます。 頻度の多い疾患としては
- A、B、C及びE型の急性ウイルス性肝炎:
とくに急性B型肝炎は急性肝不全や劇症肝炎などの重症化リスクがあり、肝機能の推移によっては抗ウイルス薬治療を行う場合があります。 - 伝染性単核症:
EBウイルス、サイトメガロウイルス等の初感染により、発熱・肝臓や脾臓の腫大・リンパ節腫脹がみられます。 - 急性肝炎様発症の自己免疫性肝炎:
女性に多く、ステロイド治療を導入することが多い病気です。 - 薬物性肝障害:
健康食品・機能性食品を含む最近の薬物服用歴のある患者さんで、上記に挙げられるような肝疾患が除外できる場合に疑います。
原因がはっきりしない場合には、肝生検という組織検査を行うことがあります。 検査は2泊3日の入院で行います。検査時には痛み止めと局所麻酔を用い、超音波で肝臓の位置を観察しながら肝臓に細い針を刺し肝臓の一部を採取します。検査にかかる時間は通常約1時間ですが、術後は穿刺部位からの出血を防ぐために約3時間はベッド上で安静にしていただきます。その後ベッド上で起き上がることは可能ですが、 翌朝まではなるべくベッド上で安静に過ごしていただきます。治療翌日の血液検査で問題なければ退院可能です。合併症には腹腔内出血や気胸、胆汁漏出がありますが、検査前に担当医が十分にご説明させていただきます。
4. 脂肪肝の診断と治療
C型肝炎・B型肝炎に代表されるウイルス性肝炎に代わって、現在大きな問題となっているのが脂肪肝です。お酒の飲みすぎも原因となりますが、お酒を飲まない方の脂肪肝は肥満・高血圧・高血糖・脂質代謝異常といったメタボリックシンドロームと関連が深く、近年患者数が急激に増加しています。はじめは無症状ですが、進行すると肝硬変になったり、肝がんができたりすることもあり、若いころから注意すべき疾患です。診断のきっかけとなるのは健康診断などの血液検査での肝機能異常で、ALT値が30 IU/Lを超えていたら脂肪肝などの慢性肝疾患が隠れているかもしれませんので、一度専門医の受診をお勧めいたします。
当科では血液検査・腹部エコー検査・フィブロスキャンを用いた肝硬度測定を行い、病気の進行度(線維化:どれくらい肝臓が硬くなっているか)、つまり肝硬変への進行や肝がん発生のリスクを判断します。特に肝臓の炎症や線維化が進んでいる場合には、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)(以前は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれていました)と診断され、慎重な経過観察が必要です。
治療は減量と生活習慣の改善が最も重要です。体重を減らすことで肝臓内の脂肪を減少させることができます。 体重の約7%の減量で効果が期待できますので、それを目標に生活指導や栄養指導を行います。さらに高血圧・糖尿病・高脂血症などの疾患が隠れている場合には、その治療も行います。MASHの改善には抗酸化作用があるビタミン E や、インスリンの効きを改善する作用のある糖尿病薬などが 有効であることが示されていますが、長期間にわたって肝硬変への進行や肝がんの発症を防ぐことができるかどうかはいまだわかっていません。現在MASHに対して有効な薬剤の開発が進んでいます。
5. 肝がん:ラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法、抗がん剤療法、放射線療法を交えた集学的治療
肝臓にできる悪性腫瘍(がん)のことを肝がんといいます。肝がんには、肝臓の細胞からできる「原発性肝がん」と肝臓以外の部位にできたがんが肝臓に転移してきた「転移性肝がん」があります。「原発性肝がん」の大部分は「肝細胞がん」というがんで、B型肝炎やC型肝炎、アルコール性肝障害、脂肪肝などの慢性肝疾患がリスクファクターとなります。
診断は血液検査(腫瘍マーカー:AFPやPIVKAII)と画像診断(腹部超音波検査(エコー)、CT検査、MRI検査など)を組み合わせて総合的に行います。
肝臓がんの治療は、がんの大きさ、数、場所、患者さんの全身状態、肝機能など様々な要因を考慮して決定されます。当科では以下のような様々な治療の中で、患者さんのからだに負担が少なく、かつ効果的な治療を選択しています。
- ラジオ波焼灼療法(RFA):
高周波電流を用いてがん組織を焼灼する治療法です。一般的には腫瘍が1個ならば直径5cm以内、または複数個ならば3個以下かつ直径3cm以下が適応基準となっています。
治療は痛み止めと局所麻酔を用いて行います。超音波でがんの位置を観察しながら電極を挿入し、電流を流してがんを焼灼します。1回あたり約6-12分間の焼灼を、電極を何回かに分けて挿入して繰り返し治療します。治療にかかる時間は、通常約1-2時間です。術後は治療部位からの出血を防ぐために約4時間はベッド上で安静にしていただきます。その後ベッド上で起き上がることは可能ですが、 翌朝まではなるべくベッド上で安静に過ごしていただきます。治療翌日の血液検査とCT検査で合併症の有無などの評価を行い、治療が終了と判断されたら治療後4日目以降に退院可能です。合併症には腹腔内出血や気胸、胆管障害・胆汁漏出などがありますが、治療前に担当医が十分にご説明させていただきます。 - 肝動脈塞栓療法(TACE):
がんに栄養を供給する肝動脈に抗がん剤と塞栓物質を注入して、がん組織の血流を遮断し、がん細胞を壊死させる治療法です。肝臓がんの大きさ・個数や患者さんの全身状態・肝機能が原因でラジオ波焼灼療法が難しいケースでも施行可能なことがあります。 - 手術(肝切除):
がんを周囲の正常組織とともに切除する手術です。最も効果的な治療法の一つですが、患者さんの全身状態、肝機能によっては施行できない場合があります。手術が適切と判断された場合には、当院肝胆膵外科にご紹介させていただきます。 - 薬物療法(抗がん剤治療):
様々な理由でRFAや手術ができない場合、または骨や肺など肝臓の外にがんが転移した場合などに用いられます。当院では最新の抗がん剤(分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬)を用いて、副作用に十分注意しながら治療を行っています。 - 放射線療法:
骨へのがんの転移や様々な理由でRFAや手術、薬物療法ができない場合に選択されます。当院放射線治療科と連携し治療を進めていきます。 肝がんの治療は日々進歩しています。我々は、これらの治療を効果的に組み合わせて患者さんにより効果的な治療を提供したいと考えております。
最近はご高齢で初めてがんに罹患する患者さんも増えてきております。ご不安だと存じますが、治療は日進月歩ですので、しっかりと治療を行いながらも日常生活をいかに制限や苦痛の少ない充実したものにしていけるか一緒に考えて参りますので、安心してご相談ください。
ラジオ波焼灼療法
手術室
当院のRFAは外来手術センターで行います。専属の看護師が治療のサポートや患者さんへの医療的・精神的なケアをいたします。また全身モニター管理下で治療を行うなど、安全面には十分配慮しております。