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「ベトナム社会主義共和国における脳卒中診療の質の向上に対する支援事業」(リハビリテーション部門)報告
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
リハビリテーション科医師 藤本雅史
活動要約
ベトナム国における脳卒中診療、特に、急性期リハビリテーションの質の向上を支援するため、現地視察・日本での研修を通して相互理解を深めた上で、現地での講義・実習を行い、実践的な知識・技術の移転を目指した。
目的
ベトナム社会主義共和国の脳卒中診療レベルが向上するよう支援することを目的に行う。
活動項目
- 日本からの専門職派遣およびベトナム国からの研修生受け入れのための事前調査訪問
- ベトナム国の脳卒中リハビリテーション診療の現状把握およびベトナム国からの研修生受け入れの事前協議のための訪問
- 日本における脳卒中リハビリテーション診療の研修のためベトナム国バクマイ病院リハビリテーションセンターから研修生4名受け入れ
- 「日本での研修の成果を確認・評価・指導するためのフォローアップ」、「脳卒中リハビリテーション診療に関する講義・実習」、「今後の協力の方向性の協議」を目的とした訪問
*本活動は脳神経外科との合同での「脳卒中診療の質の向上に対する支援事業」のうち、リハビリテーション科が主になって行ったものをまとめたものである。
活動内容紹介
日本からの専門職派遣およびベトナム国からの研修生受け入れのための事前調査訪問
期間
2016年1月10日~1月13日出張者
早乙女(リハビリテーション科医師)
ベトナム国の脳卒中リハビリテーション診療の現状把握およびベトナム国からの研修生受け入れの事前協議のための訪問
期間
2016年6月13日~6月18日出張者
早乙女・藤本(リハビリテーション科医師)、池田(理学療法士)、水口(作業療法士)訪問病院
チョーライ病院(写真1)、バクマイ病院(写真2)、E病院(写真3)
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(写真1)チョーライ病院
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(写真2)バクマイ病院
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(写真3)E病院
日程と活動の様子
2016年6月
13日(月曜日):移動日(成田⇒ホーチミン)
14日(火曜日):チョーライ病院 訪問(写真4,5,6)
15日(水曜日):移動日(ホーチミン⇒ハノイ)
16日(木曜日):バクマイ病院(写真7,8,9)、E病院(写真10,11)訪問
17日(金曜日):バクマイ病院 訪問・総括(写真12)
18日(土曜日):移動日(ハノイ⇒成田)
まとめ
ベトナム国の脳卒中リハビリテーション診療の現状を把握して、ベトナム国からの研修生受け入れの事前協議が出来た。-
(写真4)チョーライ病院 神経内科病棟の様子
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(写真5)チョーライ病院 リハビリテーション室の様子
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(写真6)チョーライ病院 リハビリテーション室の様子
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(写真7)バクマイ病院 脳外科病棟の様子
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(写真8)バクマイ病院 リハビリセンターの様子
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(写真9)バクマイ病院 リハビリセンターの様子
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(写真10)E病院 リハビリ病棟の様子
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(写真11)E病院 リハビリ室の様子
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(写真12)バクマイ病院 総括の様子
日本における脳卒中リハビリテーション診療の研修のためベトナム国バクマイ病院リハビリテーションセンターから研修生4名受け入れ
期間
2016年10月2日~10月15日研修生
Mr.Khanh(医師、センター長)、Ms.Huong(看護師長)、Mr.Tai(理学療法士)、Mr.Tu(理学療法士)研修日程表・研修内容
表1日程と研修場所
2016年10月
2日(日曜日):移動日(ハノイ⇒成田)
3日(月曜日)~7日(金曜日):国立国際医療研究センター病院(写真13~21)
8日(土曜日)~10(月曜日):休日
11日(火曜日):中野共立病院(写真22)、初台リハビリテーション病院(写真23)
12日(水曜日):代々木病院(写真24)、デンマークイン新宿(写真25)
13日(木曜日):コンフォガーデンクリニック 訪問リハ(写真26)、通所リハ(写真27)
14日(金曜日):国立国際医療研究センター病院
15日(土曜日):移動日(成田⇒ハノイ)
まとめ
日本の脳卒中診療における急性期リハビリテーション・チーム医療を中心に、回復期、維持期までのリハビリテーション診療・チーム医療の実際を研修することが出来た。
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(写真13)Khanh医師によるベトナムチームプレゼンテーション
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(写真14)リハビリ室でのレクチャーの様子
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(写真15)SCUでのカンファレンス見学
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(写真16)リハビリ室での急変時対応訓練見学
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(写真17)OT室での実習の様子
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(写真18)嚥下造影検査見学
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(写真19)ベッドサイドでの嚥下評価見学
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(写真20)徳原室長による地域連携のレクチャー
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(写真21)神経内科・リハビリ科カンファレンス見学
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(写真22)中野共立病院回復期リハビリ病棟での回診
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(写真23)初台リハビリテーション病院にてセラピスト研修を見学
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(写真24)代々木病院回復期リハビリ病棟での回診
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(写真25)デンマークイン新宿施設見学
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(写真26)コンフォガーデンクリニック 訪問リハビリ見学
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(写真27)コンフォガーデンクリニック デイケア見学
「日本での研修の成果を確認・評価・指導するためのフォローアップ」、「脳卒中リハビリテーション診療に関する講義・実習」、「今後の協力の方向性の協議」を目的とした訪問
期間
2016年12月14日~12月17日出張者
藤本(リハビリテーション科医師)、小町(理学療法士長)、唐木(作業療法士)、丸目(主任言語聴覚士)訪問病院
バクマイ病院日程と活動の様子
2016年12月14日(水曜日):移動日(成田⇒ハノイ)
15日(木曜日):バクマイ病院
- 表敬:Khanhセンター長が日本での研修成果報告、藤本が今回の訪問の目的を説明
- リハビリテーションセンター視察:日本での研修成果の確認・評価・指導
- 理学療法室:実際の訓練場面を視察、起立性低血圧などのリスク管理について議論・指導
- 作業療法室、高次脳機能障害評価室:実際の訓練場面を視察、評価に基づいた訓練について議論・指導、日本での研修で入手した資料をベトナム語に翻訳して活用していた(写真28)
- 言語聴覚療法室:実際の訓練場面を視察、日本での研修で入手した資料をベトナム語に翻訳して活用していた(写真29)、日本での研修で入手したトロミ剤を使用して訓練、丸目がトロミ剤使用方法を確認・評価・指導して理解を深めた(写真30)
- 脳卒中リハビリテーションに関する講義・実習(iは全体、ii,iii,ivは2グループに分かれて実施)
- 「脳卒中急性期における早期リハビリテーションの意義」(担当:藤本)
参加者:54名(リハビリテーションセンター医師・理学療法士(作業療法・言語療法担当を含む)・看護師・日本人職員(青年海外協力隊)、救急科・ICU・神経科・脳外科などの脳卒中診療に関連する部門の医師・看護師等)(写真31) - 「脳卒中リハビリテーションについて:急性期リハビリテーション、特にリスク管理、安全な早期離床などについて」(担当:小町)(写真32)
参加者:28名(リハビリテーションセンター医師・理学療法士(作業療法担当を含む)、脳卒中診療に関連する部門の医師など) - 「日本の作業療法について:症例紹介、上肢機能の評価・訓練に基づいたADL向上等について、評価方法の実習等」(担当:唐木)(写真32)
参加者:28名(リハビリテーションセンター医師・理学療法士(作業療法担当を含む)、脳卒中診療に関連する部門の医師など) - 「脳血管障害患者の摂食嚥下障害と言語障害:講義とスクリーニング実習」(担当:丸目)(写真33)
参加者:26名(リハビリテーションセンター言語聴覚療法担当者(看護師)・看護師長・看護師、脳卒中診療に関連する部門の看護師など)
16日(金曜日):バクマイ病院
- 脳外科病棟での急性期リハビリテーション訓練場面視察・指導、脳外科医との意見交換(写真34、35)
担当:藤本・小町
入院患者1名に対応
参加者:センター長・副センター長・医師・理学療法士3名、脳外科部長・医師 - リハビリテーションセンターにて高次脳機能障害講義、評価・訓練の実演(写真36)
担当:唐木
入院患者1名に対応
参加者:リハビリテーションセンター医師・理学療法士(作業療法担当を含む)等 - リハビリテーションセンターにて嚥下障害評価・訓練の実演
担当:丸目
入院患者3名に対応
参加者:リハビリテーションセンター看護師・言語聴覚療法担当者等 - 今後の協力の方向性について協議
参加者:センター長、藤本・小町・丸目・唐木
- 脳卒中急性期リハビリテーションの効果的な実施
・各診療科、各病棟の更なる認識向上
・脳卒中リハビリテーション認定看護師による指導 - 作業・言語聴覚療法担当者の日本での研修受け入れ
- 診療科間、病棟間の連携推進
- 栄養科と調整して嚥下障害食を導入する際の指導
- 報告会(写真37)
17日(土曜日):移動日(ハノイ⇒成田)
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(写真28)ベトナム語に翻訳して活用している高次脳機能障害の評価・訓練用紙
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(写真29)ベトナム語に翻訳して活用している嚥下障害の訓練用紙
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(写真30)トロミ剤使用方法を確認・評価・指導している様子
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(写真31)リハビリテーションセンター及び脳卒中診療に関連する部門のスタッフ
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(写真32)小町、唐木による脳卒中リハビリテーションのレクチャーの様子紙
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(写真33)丸目による嚥下障害のレクチャーの様子
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(写真34)脳外科病棟での急性期リハビリテーションの指導の様子
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(写真35)脳外科病棟にて脳外科部長と意見交換
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(写真36)入院患者に高次脳機能障害の評価を実施して、評価方法を指導している様子
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(写真37)報告会の様子
まとめ
これまでの現地視察や日本での研修を通して、相互理解を深めた上で、日本での研修成果の確認や、現地での講義・実習、意見交換が出来た。
考察
バクマイ病院リハビリテーションセンターは、診療・教育・研究を担うベトナム国でトップレベルのリハビリテーション施設であり、各スタッフの知識や技術レベルも高く、知識や技術を向上させようとする意欲も十分あると思われる。しかしながら、バクマイ病院における脳卒中急性期リハビリテーションは十分には機能していないのが実情である。その要因として、
- 関連する診療科・病棟における脳卒中急性期リハビリテーションに関する理解不足
- 早期離床の進め方に関するノウハウや経験不足
- リスク管理や安静度に関する理解不足
- 主治医とリハビリテーション科医との連携不足
- 関連する診療科・病棟間の連携不足
- ベッド・車椅子・病棟環境
- 制度的問題(ベッドサイドでの自費扱い等)
などが挙げられる。
これらの要因は、今回のプロジェクトでの相互訪問やフォローアップ訪問での各場面での議論を通して、ベトナム側も認識しているものと思われ、バクマイ病院リハビリテーションセンターとしても、すぐに改善できる事から対応を開始しており、更なる改善に取り組んでいる。
脳卒中急性期リハビリテーションを充実させる上で、最も重要な、関連する診療科・病棟間の連携に関しては、リハビリテーションセンターのみの取り組みでは限界があり、特に、ベトナム国では、院長を始めとした病院幹部からのトップダウンの指示のもと関連する診療科・病棟間の連携を強め、医師のみではなく看護師や関連職種の連携を密にしたチーム医療が実践されることが望まれる。
まとめと今後の課題
ベトナム国に脳卒中急性期リハビリテーションを普及させるためには、まずは、ベトナム国で診療・教育・研究の中心的な役割を担っているバクマイ病院において、病院幹部の理解・支援・指示のもとリハビリテーションセンターを中心として関連する診療科・病棟の連携を強化し、ベトナム国における脳卒中急性期リハビリテーションのモデルケースにしていくことが必要である。
そのために、今回の経験を踏まえ、また、バクマイ病院リハビリテーションセンター側からの要望を考慮して、ベトナム国における多職種から成る包括的な脳卒中診療体制を構築できるように、脳神経外科医、リハビリテーション科医、看護師、薬剤師、PT、OT、ST、栄養士、MSWなど多職種から成るチームで、患者をきめ細かくフォローする体制づくりを支援していく必要がある。