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胃がんの外科治療について
手術治療について
がんを含めて、胃の一部または全てを切除します。
早期胃がんでは、なるべく切除範囲を小さくして、残る胃の機能温存に努めますが、がんの取り残しがないように十分な余裕を確保して切除します。
がんの手術では、転移の可能性があるリンパ節を腫瘍とともに切除します(リンパ節郭清)。 胃およびリンパ節切除のち、食べ物が摂取できるように消化管をつなぎ合わせます(再建術)。
がんの場所や大きさ、深達度によって最適と考えられる切除方法を判断します。
以下に代表的な切除方法を説明します。
幽門側胃切除術
胃の出口のことを幽門といいます。幽門を含めて、胃の出口側を2/3~4/5程度切除します。
噴門(胃の入り口)にかからない早期胃がん、胃上部にかからない進行胃がんに対して行われる、最も一般的な胃切除法です。
再建法
以下の2つの再建法が行われることが多いです。
- Billroth(ビルロート)Ⅰ法:残った胃と十二指腸を直接吻合する(つなぐ)方法です。
- Roux-en-Y(ルーワイ)法:残った胃と小腸を吻合する方法です。十二指腸に分泌される消化液(膵液・胆汁)と食物が混じり合うために、小腸と小腸の吻合も必要です。
胃全摘術
胃の入口と出口を切離して、胃の全てを切除します。
胃の上部にかかる進行胃がんや、胃の上部にかかり残胃を半分以上残すことが難しい早期胃がんに対して行われる術式です。
可能な限り胃を残すことが、術後の急激な体重減少を軽くすることにつながりますので、近年は出来る限り胃全摘を避けるように工夫をしています。
再建法
食道と小腸を吻合します。十二指腸に分泌される消化液(膵液・胆汁)と食物が混じり合うために、小腸と小腸の吻合も必要です。
噴門側胃切除術
胃の入口を噴門といいます。
噴門側の胃を1/3~1/2程度切除し、残り2/3~1/2の胃を温存する機能温存手術です。
胃の上部に限局する早期胃がん・食道胃接合部がんの一部に対して行われる術式です。
再建法
当院では以下の2つの再建方法を採用しています。
- 逆流防止機構を付加した、食道残胃吻合法
まず食道と残胃を吻合します。
そのままでは消化液が食道内に逆流することが多いため、胃壁を薄く剥ぎ、食道と残胃の吻合部を覆います。胃壁の間に食道が挟み込まれることで逆流が低減されます。
この方法は上川法、観音開き法、ダブルフラップ法と呼ばれ近年急速に普及しつつあります。
当院では、施行可能な症例についてはこの方法を第一選択としています。 - ダブルトラクト法
小腸を上に持ち上げて、食道と小腸を吻合します。
小腸と残胃、そして小腸と小腸を吻合します。残胃の機能が生かせること、食べ物の通り道が2通り確保されることがメリットです。
当院では、上記①の方法が困難な症例で選択します。
幽門保存胃切除術
胃の中部に限局する小型の早期胃がんで、腫瘍が胃の出口(幽門輪)から4cm以上離れている症例に対して行われる術式です。
再建法
胃の中部を切除して、残った胃どうしを吻合します。
胃の出口である幽門輪を切除せず温存することで、食物がすぐに腸に流れ込まないようにする機能温存手術です。
開腹手術と腹腔鏡手術について
手術のアプローチの方法として、お腹を大きく切って操作する方法(開腹手術)と、お腹をガスで膨らまして腹腔鏡という筒状のカメラを挿入して操作する方法(腹腔鏡手術)があります。
開腹手術は古くから行われている方法で、上腹部を約15~20cm程度切開し、直接臓器を目で見て手で触れながら手術を行います。主に進行がんに対して選択されています。
腹腔鏡手術は、5-12mm大の小さな創を5か所あけて、高精細のカメラで腹部内を拡大して見ながら、様々な医療器具を用いて手術を行う方法です。日本では1991年より開始され、すでに30年近い歴史があります。主に早期がんで選択されることが多いですが、最近では進行がんの一部にも適応が拡大されつつあります。当科では、腫瘍の大きさ・場所・深さやリンパ節転移の状況などを考慮して、腹腔鏡手術の適応を慎重に判断しています。
腹腔鏡手術は、ことに創の小ささがメリットとして取り上げられることが多いですが、我々は体の中でもきれいにがんを切除することを重要視して日々研鑽しています。
腹腔鏡手術の長所
- 高精細のカメラで拡大して視ることで、精密な手術が期待できる。
- 創が小さく、目立ちにくい。
- 術後の鎮痛剤の使用頻度が少ない。
- 手術中の出血量が少ない。
腹腔鏡手術の短所
- 進行胃がんでの有用性・有効性がまだ十分には証明されていない。
- 安全な手術のためには、充分なトレーニングや経験が必要である。
- 開腹手術と比較して、手術時間が1時間程度長くなる(術式によって異なる)。
ロボット支援下手術について
ロボット支援下手術については、こちらをクリックしてください。
集学的治療による高度進行胃がんへの取り組み
高度進行胃がんでは、手術のみではがんの根治や長期生存期間の達成はなかなか難しいことが多く、化学療法や(場合により)放射線療法を上手に組み合わせてがんに立ち向かう必要があります。これを集学的治療と呼びます。
切除はぎりぎり可能だが腫瘍の微小な遺残が危ぶまれるような進行胃がんや、多くのリンパ節転移があり術後再発のリスクが高いと考えられる進行胃がんでは、手術の前に化学療法を2~3回行うことがあります。これを術前化学療法といいます。
術前化学療法のメリットとして、体力のあるうちに強力な化学療法を行うことができること、大きながんやリンパ節転移が縮小すれば確実な切除ができる可能性が高まることなどが挙げられます。一方で、化学療法が無効であった場合は腫瘍がさらに大きくなり切除のタイミングを失うことがあるというデメリットもありますので、術前化学療法を行う場合は手術のタイミングがとても重要になってきます。
初診時の検査で、肺や肝臓など離れた臓器への転移(遠隔転移)や、大動脈という太い血管周囲のリンパ節転移(大動脈周囲リンパ節転移)、お腹の中で腫瘍の粒が散布されている状態(腹膜播種)と診断されることがあります。この場合、治療の中心は化学療法となります。
胃がんに対する抗がん剤は、5-FU系(エスワン・カペシタビン)・プラチナ系(シスプラチン・オキサリプラチン)・タキサン系(パクリタキセル・ドセタキセル)・イリノテカンが代表的です。他には分子標的薬であるトラスツズマブ(HER2陽性例)やラムシルマブ、最近では免疫チェックポイント剤であるニボルマブ・ペンブロリズマブが使われることが多くなっています。
これらの抗がん剤を組み合わせることで、当初は切除不能であった進行胃がんが切除可能となり、長期生存が得られる症例も近年増えてきています。
我々は、外科・消化器内科(内視鏡チーム・化学療法チーム)・放射線科・病理検査科の医師が参加するカンファレンスを週に1回定期的に開催し、高度進行胃がんに対して積極的な集学的治療を進めています。
当科におけるチーム医療
胃の腫瘍のみならず、高血圧・糖尿病などの並存疾患を持っている患者さんは珍しくありません。
特にご高齢の患者さんでは、様々なご病気を抱えているのみならず、加齢に伴う筋力や身体機能の低下を伴っていることとも非常に多いです。
このため、がんそのものの治療だけではなく、内科・歯科・リハビリテーション科といった様々な専門科との連携や、看護師・薬剤師・理学療法士・栄養士・臨床心理士・ソーシャルワーカー等の多職種専門家との協力が非常に重要になってきます。
我々は、食道がん・胃がんの診療にあたり、多科・多職種専門家からなるチーム医療を重要視しています。
術前・術後の全身機能温存・強化、術後合併症の低減、術後回復促進を目的としたケアプログラムチームを、当科ではチーム スクラム(team SCRUM:Team for Surgical Care, Recovery, Upgrading Management)と呼んでいます。
手術治療の方針が決まったその日から、このプログラムは始まります。
初診時には「胃がんの外科治療をこれから受ける方のために」というパンフレットをお渡しし、病気に対する理解を深めて頂くと同時に、その日からできる健康習慣、呼吸トレーニング、禁酒・禁煙などを始めてもらいます。
入院前には歯科・薬剤科・リハビリテーション科を受診して頂き、歯科治療や薬剤に関する指導・アドバイス、リハビリテーションを必要に応じて早期に受けて頂きます。
例えば、周術期における歯科医師・薬剤師・理学療法士の役割は以下の通りです。
- 歯科医師
う歯(虫歯)や歯周病があると、術後の肺炎などのリスクになります。 術前に口腔内の評価を行い、必要な場合は手術の前に抜歯等の治療を行うことがあります。待てる場合は、退院後の落ち着いた時期に歯科治療を行うこともあります。 - 薬剤師
術前に内服薬や服薬状況を把握します。
抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)など、術前に中止の必要がある場合は医師に確認のち、休薬指導をします。
抗がん剤の副作用や注意点等についても丁寧にご説明します。 - 理学療法士
術前術後のリハビリテーションを行います。
嚥下(飲み込み)が難しい場合は、嚥下訓練も併せて行います。
患者さんが無事に退院されるその日まで、この多科・多職種連携プログラムは休むことなく継続されます。