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食道がんについて(病態と治療)
1. 食道がんとは
食道は頸部、胸部、腹部にわたる細長い管腔臓器です。内部から粘膜、粘膜下層、筋層、外膜の順で構成されています。食道がんはまず粘膜から発生して次第に大きくなります。
早期のがんは症状がないことが多く、検診などで発見されます。一方、食道がんが進行すると食事の飲み込みづらさ、嘔吐を繰り返すようになります。早期のがんであっても容易にリンパ節転移をおこすことがわかっています。
組織型(顕微鏡でみた時のがんの形)は日本の場合90%以上が扁平上皮癌です。男性に多く、40歳代から増加し始め、60歳代に好発するといわれています。また他のがんを重複することが少なくありません(胃がんや下咽頭がんなど)。さらに近年、逆流性食道炎に関連したバレット食道がんも増えています。
2. 食道がんの危険因子は?
喫煙、大量飲酒、フラッシング(アルコールを飲んで顔が赤くなる方)が影響あるとされています。フラッシングになる方はそうでない方より5-10倍リスクが高いと言われています。
3. どのような検査をしますか?
1. がんの広がりの検査をします
内視鏡
口から内視鏡を挿入して直接食道の粘膜や病変を観察します。 病変の確認とともにルゴール染色という特殊な染色液による多発病巣の確認、生検による病理組織所見の確定の目的で行います。同時にのど(咽頭、喉頭)、胃、十二指腸まで観察します。
通常内視鏡 ルゴール染色
超音波内視鏡
口から内視鏡を行いがんの深さやリンパ節の腫れの程度を詳しく検討する検査です。
CT検査
がんの広がりや、リンパ節の腫れ具合を調べます。食道のまわりは気管や大きな血管や心臓など重要な臓器がたくさんあります。食道がんの診断に欠かせない検査です。この検査の際には造影剤を使用します。
食道造影検査
バリウムを飲んで病変の部位、大きさを確認します。
超音波検査(頸部、腹部)
腫れているリンパ節や遠隔転移などの診断をします。
PET検査
リンパ節や全身へ転移を調べるときや再発の判定や治療後の判定に用います。
PET検査 食道造影検査
頭頸部領域のスクリーニング
重複しやすい下咽頭がんや喉頭がんを診察や内視鏡等で確認します。
2. 全身麻酔の手術が安全にできるかどうかの検査をします
既往歴、現在治療中の病気のチェック
過去の病気を確認します。また現在治療中の病気があったら、教えてください。
採血、尿検査
貧血や炎症状態、腫瘍マーカー、糖尿病の有無などを確認します。
心電図、心臓の精密検査(心エコー)、肺機能検査
心臓や肺の機能を詳しく調べます。たばこを吸っているかたは異常値になることがあります。心臓の機能に問題がある場合は循環器医師の診察・検査を行ってもらう場合があります。
薬剤師による内服薬の確認
血液が固まりにくい薬や全身麻酔に影響を及ぼす薬を手術前に必要かどうか確認します。状況によっては内服方法の指示がある場合があります。
栄養状態の確認
採血や体重を確認して必要とされる栄養を評価します。
歯科受診
口の中を観察して炎症(虫歯や歯槽膿漏など)やプラーク(歯垢)を取り除きます。
3. 病期(ステージ)の分類はどのようにしますか?
病期(ステージ)は、がんの進み具合を評価するものです。がんの深さ(T)、リンパ節転移の程度(N)、遠隔転移(M)の程度により総合的に判断します。3つの因子の組み合わせで病期が決まります(図1)。分類は日本食道学会編食道癌取り扱い規約と欧米で使用されるUICC分類があります。
- T1a がんが粘膜内にとどまる病変
- T1b がんが粘膜下層にとどまる病変
- T2 がんが固有筋層にとどまる病変
- T3 がんが食道外膜に浸潤している病変
- T4 がんが食道周囲臓器に浸潤している病変
- N0 リンパ節転移がない
- N1 1群リンパ節転移を認めるもの
- N2 2群リンパ節転移を認めるもの
- N3 3群リンパ節転移を認めるもの
- M0 遠隔転移(遠いリンパ節や肺、肝臓、骨など)がないもの
- M1 遠隔転移があるもの
図1 日本食道学会編「臨床・病理 食道癌取扱い規約(第11版)」(金原出版)より一部改変
4. どのような治療法がありますか?
がんの進み具合や全身の状態を考慮して一人一人に最適と思われる治療法を考えていきます。消化器内科(内視鏡や化学療法)、放射線治療科とも相談をしてチームとして方針を立てていきます。
5. 治療の実際はどのような方法ですか?
内視鏡治療
粘膜にとどまり、リンパ節転移のない症例に対して内視鏡で切除します。
外科治療
(食道がんの外科治療の項目を参照ください)
がんを含めて食道と胃の一部、リンパ節を切除します。がんの占拠部位、深達度、リンパ節転移の状況などにより治療の方針は大きく異なります。
多く行われる手術では、右胸を開く事による(右開胸)食道切除、頸部、縦隔、上腹部の3領域のリンパ節郭清が行われます。
また、がんの位置や全身の状態で食道の代わりにする臓器(再建)と再建経路など検討します。
化学放射線療法
抗がん剤(フルオロウラシルとシスプラチン)の点滴と放射線照射(高いエネルギーのX線)の同時併用食道がんの治療を行います。
化学療法
標準的な薬剤として、抗がん剤(フルオロウラシルとシスプラチンとドセタキセルなど)の点滴を行います。血液を通して全身に行き渡らせます。単独で行う場合と外科治療と併用(術前、術後療法)と放射線照射と併用する場合があります。また最初に使用した抗がん剤の効果が低いと考えた場合、2番目の薬(ドセタキセルやパクリタキセル)を使用することもあります。本年度より、ニボルマブ(オプチーボ)が保険適応となり、日常臨床の領域で治療を開始しています。
放射線療法
局所的に放射線をあててがん細胞を制御します。多くは抗がん剤と併用で行います。その他痛みを制御するときに行う事もあります。