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食道がんの外科治療について
1. はじめに
当科では、食道がんに対する治療を積極的に行っております。食道がんの治療は多岐にわたり、外科治療、内視鏡治療、化学療法、放射線療法、緩和治療を患者様ひとりひとりに最適な形で提供いく必要があります。
食道がんに対する外科治療は、患者様にとって非常に負担が大きいです。根治手術では、頸部(くび)、胸部、腹部にメスを入れます。当科では2013年秋より、食道癌に対する低侵襲手術(胸腔鏡や腹腔鏡を用いた手術)の導入に力を入れてきました。
当科の特徴として、重度の合併症を持つ患者様が多いという点も挙げられます。食道癌に罹患される方は高齢で、様々な合併症を抱えていることが多く、手術前後の内科的な管理も非常に重要になります。当院はがん治療のHigh Volume Centerであるのと同時に、総合病院という特徴もあり、患者様の併存疾患に関して各科のエキスパートにコンサルトをしながら治療を進められる強みがあります。
食道がんに対する治療や周術期管理に関する研究は日々進化しており、複雑化しているのが現状で、多職種の専門的かつ高度な見識が必要になります。当院では、外科医、内科医、放射線科医、病理医、歯科医、手術室、集中治療医室、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、言語療法士、臨床工学士、ソーシャルワーカーが密に連携をとり、一丸となって食道がんの治療にあたっております。
2. 手術の低侵襲化(胸腔鏡手術、腹腔鏡手術の導入、普及)
食道がんの手術は、頚部(くび)、胸部、腹部にメスを入れ、手術が10時間に及ぶこともある、非常に負担の大きい治療です。それに加えて、従来は胸とお腹を大きく開ける開胸手術、開腹手術が主流で、術後の回復が遅れるという問題がありました。食道がんに対する低侵襲手術の導入、普及に力を入れております。胸腔鏡、腹腔鏡を併用することで、切開創は格段に小さくなり、術後の回復も早まると考えられています。外科チーム内では手術手技の共有と定型化を毎週のカンファレンスで徹底し、また手術室のスタッフとも連携し、安全な手術をできるだけ短い時間で行えるよう日々努めております。
3. 合併症ゼロに向けた徹底した周術期管理
食道癌の手術は、その侵襲の大きさから、他の消化器外科領域の手術に比べて、合併症の割合が増えてしまいます。当科では、術後合併症ゼロに向けて、様々な取り組みを行っております。
- 周術期栄養療法、リハビリテーション
食道癌(特に進行した食道癌)の患者様は、栄養状態が悪く、体力が消耗された状態で来院されることがあります。栄養状態や体力(サルコペニアの項を参照)は、手術成績に直結することが知られており、当科では栄養状態と体力を十分に回復させてから手術に望むよう心がけております。食道癌の患者様は全例で、栄養サポートチーム(Nutrition Support Team : NST)が栄養状態と栄養メニューを検討し、また、全員がリハビリテーション科を受診し、手術前後に徹底したリハビリテーションを行って頂きます。
リハビリの写真です。
- 歯科スクリーニングと周術期管理
食道がんの治療に際しては歯科のスクリーニングとマネージメントも重要です。口腔内の最近の一部が術後の肺炎の起因菌になることがわかっており、初診時から歯科の診察を開始し、化学療法などの入院はもちろん、手術前後も歯科のチームが治療を継続しています。 - 人工膵臓療法
侵襲の大きな手術を受けることで術後に高血糖状態をきたすことがしられ糖尿病を発症することが知られており(外科的糖尿病、かくれ糖尿病)、糖尿病患者様は合併症が多い傾向にあります。当科では人工膵臓療法(24時間連続で血糖を測定し、常に適切な血糖値にコントロールすることができる装置)を用いて、厳密な血糖管理を行って、合併症の低減に努めております。当院の過去3年間のデータでは、人工膵臓療法による合併症率低下の可能性が示唆されております。
●人工膵臓関連のデータもしくはグラフ
- せん妄予防
食道癌の手術を受けた後には集中治療室に入って頂きますが、大きな手術を受けて、慣れない環境に入ると、せん妄(一時的な混乱状態:Delirium)を来してしまうことが多く、患者様のQOL(Quality of Life:生活の質)が低下してしまいます。当科では、せん妄に対する後向きのデータをもとに、予防的な対策を進めています。さらに全国の多施設共同試験であるDELTA program(Delirium Team Approach)にも参加して、せん妄予防のエビデンスの構築に力を注いでおります。 - ICUおよび病棟カンファレンス
術後合併症ゼロに向けて、集中治療室をはじめ病棟での術後管理が重要なことは言うまでもありません。当院のICUでは、朝夕の回診時にICU医師、看護師と話し合いの場を持ち、その日の治療方針を検討し、厳密な術後管理を行っております。一般病棟に戻ってからも、週1回のカンファレンス(看護師、栄養士、医療連携、医師)を行い、情報を共有しています。
4. 多職種の密な連携によるチーム医療体制(team SCRUM)
なぜ周術期治療が必要なのでしょうか?
当センター病院の年間手術件数は平成29年度には計5000件を超え、年々増加の一途をたどっています。
その中で入院期間は短縮し、今まで以上の質の高い術前・術中・術後の管理・ケアを維持するために医療従事者に過大な労力が投入されています。さらに当院特有の全身合併症が多いこともその管理を困難にさせています。
ただ、大きな侵襲がかかる手術の場合、1~2週間の外来での検査の最中にはまったく手術のイメージを想定させるようなコミュニケーションの形成はかなり困難です。さらに入院から手術までは約2日間と短く、病棟においての術前のオリエンテーションは必要物品や術後経過の簡単な説明にとどまっているのが現状であり、患者さんが最も不安に感じる手術後の痛みの説明や早期回復のために欠かせない術前準備についての説明が十分な時間を取って効果的に行われているとは言えません。
ヨーロッパでは、学会を中心に、手術患者の術後回復力を高めようとするERASプロトコールが進行しています。このERASプロトコールとは、エビデンスにもとづいた周術期の管理方法を集学的に実施することで、術後の回復力を高め、安全性の向上、術後合併症の減少、入院期間の短縮、経費節減を目指した試みで、種々の手術で行われています。
今回我々は、当院のような全身合併症が多い症例でも難易度が高い手術を行う病院としての特殊性を出した周術期管理ができないかと考えて、さまざまな職種を交えたチームでの効率的で効果的な術前評価・術前教育・術後管理ができるチーム医療を始めました。
食道がんの治療は非常に難しく、高度な専門的知見が求められます。また、手術の侵襲度の大きさから、合併症の割合も他領域の手術に比べ高い傾向にあります。そのため、医療スタッフが一丸となり、ひとりの患者様に力を全力投球する必要があります。当院では、食道癌治療に高い専門性をもった外科医、内科医、放射線科医、病理医、歯科医、手術室スタッフ、集中治療医室スタッフ、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、言語療法士、臨床工学士、ソーシャルワーカーが密に連携をとり、日々治療にあたっております。
我々は、こうしたチーム医療体制をラグビーのスクラムに例え、「team SCRUM(Team for Surgical Care, Recovery, Upgrading Management:手術患者の回復を促進させるケアプログラム)」と呼び、難易度の高い胃がんや食道がん治療に病院スタッフ一丸となって立ち向かっております。