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嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発

はじめに

平成30年度~令和元年度の2年間、上記課題にて厚生労働科学研究班の班長を務めました。
研究成果についてご紹介させていただきます。報告書のダウンロードもご利用ください。

研究要旨

嚥下造影検査(VF)、嚥下内視鏡検査(VE)は、摂食嚥下機能の評価、食形態の決定に重要だが、すべての医療機関、介護施設、在宅等で頻繁に実施するのは困難である。すなわち、適正な食形態が選択される状況を作るためには、観察によって食形態を判定するためのガイドラインの開発が必要である。

本研究では、文献検索と実態調査を踏まえ、観察によって食形態を判定するための観察評価表を作成し、その実用性と限界について、嚥下造影・内視鏡での検査結果との比較を行った。また、実際の使用場面を想定し、在宅関係者における観察評価の一致性を確認した。

  1. 文献検索
    超高齢社会を迎えた本邦では、摂食嚥下障害のある高齢者の増加が予想され、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査を用いない簡易検査である、摂食嚥下機能スクリーニング法のニーズが高まっている。
    本研究では、現在、国内外で行われている摂食嚥下機能スクリーニング法に関して文献調査を行った。欧米では、The Mann Assessment of Swallowing Ability (MASA)やGugging swallowing screen (GUSS)を用いた報告が散見される。在宅医療が推進されている現在,摂食嚥下機能を簡易に評価して適合した食形態を提案できるような、日本人向けの摂食嚥下機能スクリーニング方法の開発が望まれる。
  2. 実態調査
    日頃、摂食嚥下障害の治療に携わっている医療者が、どのように対象患者の推奨食事形態を判断しているかを調査した。調査方法は無記名アンケート形式とし、632件の回答のうち、職種のあった625件を解析対象とした。
    推奨食事形態の決定には、スクリーニング検査よりも実際の食事場面の観察からの情報が利用されていた。観察項目で頻度が高かった回答は、The Mann Assessment of Swallowing Ability (Mann G. Cengage Learning NY, 2002) の24項目のうち、嚥下と呼吸の関係・失語・発語失行・構音障害・絞扼反射を除く19項目と類似の内容で、摂食嚥下障害の専門知識を持つ医療者は解剖学的、生理学的、神経学的知識をもとに、摂食嚥下の口腔期、咽頭期の機能を推測し、誤嚥あるいは咽頭残留の指標としてむせの有無、湿性嗄声を用い、意識レベル、随意的な咳の強さ、呼吸状態を安全性の指標として加えて推奨食事形態を判断していた。
    食事形態のレベルアップ(またはダウン)の判断は、推奨食事形態の判断に用いた項目に加え、食事に要する時間、疲労度、口腔内残留、湿性嗄声、咀嚼の様子などにより食形態が適正かを判断していた。また、食への意欲・興味・関心、嗜好、喫食率、総摂取カロリーなど摂食行動全般と栄養に関する評価も高率に行われており,きめ細やかな観察が実施されていた。
    これらの評価は評価者の主観による判断であり個々の経験に委ねられている部分が大きいので、経験によらず推奨食事形態を決定でき、その後の安全性を評価する方法の確立が求められる。
  3. 観察評価表の作成
    観察評価表(9項目)と検査との整合性の検討には1585名の被験者データを用い、一致率は80.8%であった。観察評価が検査結果よりも甘い結果となったには7.7%、厳しい結果(慎重な結果)となったのは11.5%であった。観察評価での『むせ』からの、検査での誤嚥の検出は、感度34.6%、特異度84.4%であったが、『むせ』『頸部聴診』『声質の変化』『呼吸観察』の4項目で評価すると、感度54.3%、特異度70.7%であった。一方、『口角の非対称運動』は、咀嚼を要する食品での出現率が高く、咀嚼を反映する指標であった。食形態の安全性に関連する所見を9項目から多変量解析すると、咀嚼を要する食品が摂取できるかどうかに寄与するのは、『口角の非対称運動』と『ムセ』であり、その2項目からん回帰式の正解の割合は87.5%であった。
    一方、観察評価という方法自体の検討を行うために、在宅関係者に食事場面動画祖供覧し評価表をつけてもらい、1か月後に再検した一致性の検討では、9項目の正答率は1回目64.3%から90.0%、2回目64.5%から92.%であった。評価者内での再現性を示すκ係数の平均値は0.731と「かなり一致」していた。正解率の高い評価者は再現性が高かった。
    上記の結果を踏まえ、9項目の観察評価より成る評価表を用いた食形態選定の手順を作成し、また、観察評価の技術向上のためのトレーニング動画を作成した。

研究班

班長: 国立国際医療研究センター リハビリテーション科    藤谷順子

班員: 杏林大学医学部 耳鼻咽喉科学教室           唐帆健浩
    日本歯科大学 口腔リハビリテーション多摩クリニック  菊谷 武
    藤田医科大学 リハビリテーション科            柴田斉子
    東京都立府中療育センター               田沼直之
    川崎医療福祉大学医療技術学部             寺本房子
    浜松市リハビリテーション病院             藤島一郎
    名古屋大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科         藤本保志
    広島大学大学院医系科学研究科 先端歯科補綴学研究室  吉田光由
    北海道大学大学院歯学部                渡邊 裕
    埼玉県総合リハビリテーションセンター 言語聴覚士     清水充子

研究成果

  1. 令和元年度総括・分担報告書
  2. プリント用PDFデータ
    A. 観察による食形態判定のための手引き(A3両面印刷、2つ折り仕様)
    B. 記入説明付き観察評価表(A4判)
    C. 観察評価表・観察評価表の記入説明(A4判)
  3. 観察評価技術向上のための解説動画 (外部サイトにリンクします)