国際医療協力 
          国際医療協力について

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国際医療協力について 国際医療協力について

国際医療協力について

当科に特徴的なことの一つとして、国際医療協力をあげなければならない。
それは1983年中日友好病院の左煥琮医師(現在は精華大学医学部教授)の当院への留学で始まった。以来中国からは約20名の医師が研修目的に在籍。

1991年よりベトナムのチョーライ病院のニョー医師、1994年にはボリビアのサンタクルス病院のアンテロ医師の当科での研修を引き受けて以来ベトナムとボリビアの脳神経外科への支援も開始された。これまでに両国から数名の医師の短期留学を引き受け、高度な医療技術の伝授を行った。その他トルコとノルウエーからそれぞれ1名の医師研修を引き受けた。

1997年から1998年にかけては近藤達也、原徹男、羽井佐利彦の3人はJICAの短期専門家としてべトナムホーチミン市のチョーライ病院へ赴き、ベトナムで始めてのマイクロサージャリーの導入や全国レベルでの学会の初開催に尽力した。また近藤は1997年にボリビアにも赴きやはりJICAの短期専門家として脳神経外科の救急医療に関して技術指導と講演を行った。その後しばらくは学会や頭部外傷登録事業等を通して人事交流を続けた。2006年度には当院とベトナムチョーライ病院およびボリビアサンタクルス病院との間で Resident Exchange Program がスタートし若手医師の相互研修を通してますます学術交流が盛んになった。2006年から2009年までに3人のレジデントを派遣、2006年から2010年までに5人のベトナム人医師を受け入れ国際医療研究開発事業や医療技術展開推進事業により2015年から2017年までに2人のレジデントを派遣、5人のベトナム人医師を受け入れた(2人はバックマイ病院所属)

国際医療協力についてのイメージ 国際医療協力についてのイメージ

ベトナムとの交流から得たこと、
そして今後の課題は?

現地を知るだけでなく自国の医療を外から見直す非常に良い機会である。

海外の医療現場で現地のスタッフとともに働き、その生活の中で社会を感じ取ることは、より深く彼らを理解することに繋がり、より強く協力、協調関係を築くことへ繋がる。

・近年の食生活の変化や環境整備に伴いベトナム社会の死亡原因は、感染症から非感染性疾患へ移行している。非感染性疾患の中ではがん、心臓病、脳血管障害が増加傾向。

・ベトナム社会の高齢化と共に脳卒中患者の増加が著しく年間約20 万人が発症しいまだ約半数は死亡、90%は後遺症を残すといわれている。

・今後は外傷だけでなく脳卒中診療のレベルアップを図ることが国民の健康寿命を延ばすためにはきわめて重要である。

ベトナムとの交流から得たこと、そして今後の課題は?のイメージ

文献
1.羽井佐利彦,原徹男,近藤達也,秋山稔,朝日茂樹:
ヴェトナムでの脳神経外科分野短期技術協力-Part 1. microscopeの導入. 脳神経外科25(11) : 1054-1056, 1997
2.原徹男,羽井佐利彦,近藤達也,秋山稔,朝日茂樹:
ヴェトナムでの脳神経外科分野短期技術協力-Part 2. 第1回脳神経外科セミナーの開催. 脳神経外科25(12) : 1147-1149, 1997
3.朝日茂樹,秋山稔,近藤達也,原徹男,羽井佐利彦,Truong Van Viet:
途上国における重症頭部外傷の実態と援助のあり方. 神経外傷20:1-5, 1997

注:上記文中いずれも敬称は略させて頂きました。
文責 原 徹男

ベトナム体験記

研修期間:2007年10月27日~11月25日井上 雅人

2007年10月27日から2007年11月25日までレジデント交換プログラムによりベトナム社会主義共和国ホーチミン市チョウライ病院、脳神経外科に臨床留学の機会をいただいた。1ヶ月間での目的は以下の3点であった。

  • ①頭部外傷患者を中心に脳神経外科患者に対する手術治療の見学、実践
  • ②頭部外傷患者登録システム実施状況の確認
  • ③Health Information and Research Surveyのアンケートの実施

目的①については、月曜から金曜までの平日は定時の手術を毎日できる限り見学、参加し、さらにできる限り当直にも参加し、緊急手術の術者、助手として手術治療に参加した。約4週間の間で実際に参加した総手術件数は51件となり、うち術者としては15件程度を行った。

術者として行った手術はすべて頭部外傷患者の手術である。日本での術式と大きくは変わらないが手術器具や細かいところでの違いに戸惑いはあったが、違う環境での手術を経験することが出来、今後に生かせると感じている。

助手として参加した手術は脳腫瘍や脳膿瘍から、脊椎腫瘍、脊椎椎間板疾患など脳神経外科全般の手術となった。(2005年から2006年にかけて1年間同病院に滞在していたため、大きな問題は感じなかった)

手術室の風景。左が筆者。 手術室の風景。左が筆者。

②、③については原医長の研究の一環であった。現在もプロジェクトは継続中であり、レジデントを終了した現在もベトナムに短期間渡航し、日常業務とは別に仕事を行っている。

病院としてこのような交換留学制度を確立しており、毎年必ず医師のやり取りをしているということはこの病院の大きな特徴であり魅力と感じる。また、スタッフとして残ったときにも、途上国との仕事に携われることも当センターならではの仕事と思う。

研修期間:2009年 年2月1日~3月1日寺野 成彦

ベトナムにおける脳神経外科

ベトナムは急激な経済成長期にあり、貧富の差が拡大する中、国民の多くは移動手段としてオートバイを使用しています。4人家族あたり3台のバイクを保有しており他国と比べてもその保有率は格段に高いといえます。このような状況になった原因としては、夫婦共働きで、日中と夜間に別の仕事を持っており効率よく移動する手段が必要であること、国内の公共交通機関がほとんど発達していないことなどが挙げられます。道路交通法規は自転車が主流であった頃と大きくは変わらず、信号機の設置等のハード面も現状に応じていない状況です。その結果、交通外傷の件数は多く、1日あたり33人がお亡くなりになっている現状です。日本と比較すると数倍以上の死亡率となります。

ベトナムの人口はホーチミン、ハノイに集中しており、都市化の進行に伴い交通外傷が多くみられます。今回の研修先であるチョーライ病院はベトナムでも最も交通外傷が多い場所に位置し、かつ脳神経外科医が全国から集まり約60人態勢で脳神経外科疾患に対応している総合病院です。脳神経外科のみで手術件数は1日当たり30件近くに至り、ICU:50人、NICU:80人、Traumatic room:70人、一般病棟:300人と計500人の患者を診ております。交通外傷による急性硬膜外血腫など緊急での開頭術が必要な症例数は1日あたり4,5件とその割合が非常に多いのが特徴です。

ベトナムは急激な発達途上にあり患者が病院に訪れることが容易でないことから、腫瘍等の疾患は発見の時期が遅い傾向にあります。そのため先進国では見ることが難しいようなstageの進んだ腫瘍の症例を経験することがあります。交通外傷だけでなく腫瘍、血管障害の症例も多く、脳神経外科医が少ないこととあいまって、医師の仕事が手術に特化する傾向もあります。

チョーライ病院のICUの様子 チョーライ病院のICUの様子

ベトナムでの研修を終えて

ベトナムは、当然のことながら日本の社会とは異なり、その背景の違いから、必然的に病院の役割、脳神経外科の役割が大きく異なっています。ベトナムの人口は日本の8割程度であるのに対し、脳神経外科医は130人程度しかおりません。そのため一人で多くの手術を行う必要があり、手術業務に特化する傾向が生まれます。ベトナムの脳神経外科医は日本に比べて数倍から10倍程度の手術を行い日々研鑽を積んでおり、日本の脳神経外科のレジデントが実際に現場の中で学ぶことは非常に多岐にわたり得るところが大きいと考えられます。

今回研修したチョーライ病院は日本との協力関係にて造られた病院ですが、医療システムはすでに独自のものと考えられます。そのためシステム、手術の適応や手術技術の相違と遭遇することとなり、このことは同時に日本の医療の輪郭を浮かび上がらせ、自分の医療を見直す良いチャンスを得ることにも繋がります。

海外で日本の医師がメスを持つことが事実上不可能に近い状況の中、海外の医療現場に入りそこのスタッフとともに働き、手術を行える経験は非常に貴重なことと考えられます。日本人医師が海外の医療現場で現地のスタッフとともに働き、その生活の中で社会を感じ取ることは、より深く彼らを理解することに繋がり、また、より強く協力、協調関係を築くことへ繋がるものと考えられます。

経験手術症例(1ヵ月間あたり)

  • ・椎間板ヘルニア10件
  • ・急性硬膜外血腫5件
  • ・頭蓋形成術 3件
  • ・開頭クリッピング術2件
  • ・髄膜腫2件
  • ・星細胞腫2件
  • ・前方固定術2件
  • ・AVM1件
  • ・三叉神経血管減圧術1件
  • ・シャント術1件
  • ・術後感染による
    人工物抜去術
    1件

研修期間:2015年11月8日~11月28日玉井 雄大

当科はベトナム脳神経外科に対して人材交流や医療支援といった国際協力に取り組んでいます。当科では人材交流の一環として日本人若手医師の短期滞在を行っており、私も2015年11月8日から11月28日の期間においてチョーライ病院に臨床留学をする機会をいただきました。医療支援のための現時点でのニーズを調査することが目的でした。現地ではベトナム人医師に同行し、カンファレンスや回診、手術、当直などに参加しました。ベトナム人の方々はとても友好的であり充実した研修を行うことができました。意見交換の中で多く挙げられた要望は内視鏡治療や血管内治療といった低侵襲手術に対するものでした。同要望に対しては帰国後に共有し、実際にベトナム人医師の受け入れや専門医による医療支援などを介して対応いたしました。引き続き人材交流を継続し、医療支援を行うことは当科の特色であり務めと考えます。
術に特化する傾向もあります。

チョーライ病院の正面玄関 チョーライ病院の正面玄関

研修期間 : 2017年1月5日〜1月27日山口 翔史

ベトナム・ホーチミン市

ベトナム社会主義共和国は東南アジアにある人口約9270万人(2016年)の国で、近年は経済・医療の両面で急速な成長を遂げつつあります。

ホーチミン市(旧サイゴン)は首都ハノイと並ぶベトナムの中心都市です。人口は800万人超とベトナム社会主義共和国の中で最大で、経済の中心地であり、フランス統治時代の建築物や華僑が発展させた中華街などの街並みが人気の観光都市でもあります。

ベトナム人の主な移動手段はモーターバイクで、ホーチミン市内でも乗用車はあまりみられず、メイン道路はほぼバイクで埋め尽くされていました(現地のドクターはこれでもかなり車が増えてきたと言っていました)。信号機・横断歩道の整備やヘルメットの義務化などここ数年で交通事情は改善してきていますが、それでも人口10万人あたりの交通事故死亡者数は25人(世界181か国中22位、日本は5人/163位)と非常に多く、事故そのものはその数十倍に上ります。

チョーライ病院・脳神経外科

急速なスピードで発展しているベトナムの経済・医療ですが、ベトナム最大の都市であるホーチミン市でさえまだまだ医療体制は十分に整ってはいません。特に小児科、産婦人科、循環器内科、脳神経外科などは対応可能な少数の病院に集中しており、脳神経外科が対応可能な病院も市内に2-3か所しかありません。

その一つであるチョーライ病院は1900年に開院しホーチミン市の医療の中心として発展してきた総合病院です。walk-inや救急のみならず近隣で対応困難・不可能とされた患者さんも搬送されてきます。「チョーライ病院で診てもらって治らない(助からない)なら仕方がない」と国内・地域からの信頼も非常に厚く、まさに脳神経外科疾患のメッカといってよい病院です。

このような環境であるため、日本の病院では想像もつかないほどの数の手術・治療をこなしています。定時(予定)手術は週6日(3つの手術室で6列並行、1日平均10-15件、年間5000件超)ですが、脳神経外科用の緊急手術室があり、主に外傷ですが緊急手術も1日に10件程度入ります(年間4000件超)。

手術室はほぼ24時間365日稼働しており、たとえ深夜であっても手術室に行けば大体何かしらの脳神経外科手術をやっていました。年間10000件近くの脳神経外科手術を、36人の指導医、9人のレジデント(卒後1-3年目)、15人のフェロー(卒後4年目以降)でこなします。頭蓋底やbypassなどの高難易度の手術以外は日本でいう専門医取得前の学年の若手が主に執刀しており、手術経験を積みたい若手外科医には夢のような環境です。

私自身も学年の近いレジデントと一緒にほぼ毎日手術に入らせていただきました。ベトナム語はもちろん英語も苦手な私でしたが、手術の手順はほぼ日本と共通であり、一緒に手術をこなしているうちに言葉も慣れていきました。症例のバリエーションも豊富な海外のhigh volume centerで実際に手術ができるという機会はなかなか得られるものではなく、非常に貴重な経験となりました。

研修中のプライベートについて

私がホーチミンに行った時期はちょうどベトナムの旧正月(テトと言うそうです)前の時期であり、街全体がお祭りムードに包まれていました。日本の年末年始を想像して頂ければと思います。チョーライ病院のドクター達も例外ではなく、かなりの頻度でパーティー(つまり飲み会)に誘われました。病院主催のものから脳神経外科病棟のもの、若手だけのものといろいろあり、楽しく過ごすことができました。ベトナムの方はかなり激しく飲まれるため帰宅の頃には皆ふらふらになりますが、次の日には平気な顔で手術に入っていました。

また、人材交流も盛んな病院であり、ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどから医学生やドクターが各科に見学・研修に来ていました。少ない時間ではありましたが彼らとも話す機会があり、各々の国やベトナムの医療について意見を交わすことができ、非常に有意義であったと思います。

チョーライ病院脳外科のメンバーと。正面が筆者。 チョーライ病院脳外科のメンバーと。正面が筆者。

ベトナム・チョーライ病院の
医療の問題点や課題など

上記のような手術に特化した環境であるため、脳神経外科の手術技術については若手のうちにかなり鍛えられます。同年代の日本や欧米の医師と比較してもひとつひとつの技術は格段に高いと感じました。しかし、次々に手術をこなさなければならないため、一人一人の患者さんのfollow-upが十分にできず、指導医のfeed backを十分に受けられないこともあるようでした。冒頭で述べたように地域の中心病院であるチョーライ病院には手術が必要な患者さんが一極集中します。300近くある脳神経外科のベッドはすぐに溢れかえり、術後の患者さんは数日で後方病院に転院してしまいます。そのため、意識状態や四肢麻痺が改善したか・残ったかなどの手術のoutcomeを自分で確認できず、日本では一般的な合併症・晩期症状(spasm,脳浮腫,水頭症など)もほとんど経験しないようです。チョーライ病院の脳神経外科医師は非常に優秀で勉強熱心であり、最新の知見にもよく通じていますが、手術以外の予防や術後の診療、リハビリテーションなどにかかわる機会がほとんどないことは残念に感じているようでした。

また、日本と比較すると医療資源についてかなり制限があります。ベトナム政府も国民皆保険可に向けて動いているとのことですが、まだまだ保険をもっていない患者さんも多く、もっている場合でも保険でカバーできる治療の範囲には限界があります。病院には最新のNavigationシステムや手術顕微鏡、開頭する際のドリルや骨固定のためのプレートなど日本の病院と同等の設備・器具がありましたが、手術の多さや医療費の点から使用できるものには限界があるようでした。

日本と全く違う医療環境に身を置き、現地の若手ドクターはじめ様々な方と交流することで強い刺激を受けることができました。途上国に対する支援の重要性と、自身の行っている診療や日本の医療制度について見つめなおす良い機会ともなりました。

研修を許可して下さった当科の原徹男先生とチョーライ病院・脳神経外科のNguyen Phong部長、チョーライ病院・脳神経外科の先生方、現地で研修するにあたって多大なサポートを頂いた当センター・国際医療協力局の方々にこの場を借りて感謝申し上げます。

主な経験症例 40件 + 緊急手術

  • ・脳腫瘍21例
  • ・血管障害(脳出血/くも膜下出血/もやもや病など)8例
  • ・頭部外傷 9例
  • ・脊椎・脊髄1例
  • ・VPシャントなど1例
  • ・小児3例
    (重複あり)