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原発性アルドステロン症(Primary Aldosteronism;PA)

確認・更新日(2024年9月5日)

原発性アルドステロン症の概要

高血圧の患者さんの約90%は原因が1つに特定できず、ストレス、肥満、塩分過多、遺伝的要素、その他の要因が複合的に影響して起こる高血圧で「本態性高血圧」と呼ばれます。残り約10%の患者さんは原因が特定できる高血圧で「二次性高血圧」と呼ばれます。二次性高血圧の原因の1つが原発性アルドステロン症で、全高血圧例の約5%に見られるとされています(文献1)。特に治療抵抗性高血圧や若年性高血圧の方に多く見られます。この病気は本態性高血圧に比べて脳卒中、心肥大、心房細動、冠動脈疾患、心不全、慢性腎臓病、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの発症・合併リスクが明らかに高いと報告されています(文献2、3、4)。原発性アルドステロン症は、適切に診断されないまま本態性高血圧として治療されているケースが多く、早期発見と適切な治療が重要です。

原発性アルドステロン症の病態

原発性アルドステロン症は、副腎に発生する腫瘍(ほとんどは良性の腫瘍=腺腫)や両側副腎皮質過形成が原因でアルドステロンという血圧調節ホルモンが過剰に分泌される病気です。アルドステロンは副腎で作られ、ナトリウムと水の再吸収を促進し、血圧と水分量を適切な状態に調整するホルモンです。アルドステロンが過剰になると血圧が上がり過ぎて高血圧になります。またアルドステロンはカリウムの排出を増加させるため、低カリウム血症を引き起こすことがあります。ただしカリウム値が正常の症例も多く、低カリウム血症の有無だけでは原発性アルドステロン症と本態性高血圧を区別するのは困難です。

原発性アルドステロン症の症状

原発性アルドステロン症の主な症状は高血圧であり、3種類以上の降圧剤を内服しても血圧が下がりにくい方(治療抵抗性高血圧)が多いです。また、低カリウム血症によって筋力低下や疲労感、不整脈が現れることがありますが、無症状の方が多いのが特徴です。

原発性アルドステロン症の検査・診断

スクリーニング検査

スクリーニング検査の適応

スクリーニング検査は、以下の条件に該当する方に推奨されます:

  • 低カリウム血症の合併
  • 治療抵抗性(3種類以上の降圧剤を内服しても血圧が下がりにくい)の高血圧
  • 若年発症(40歳未満)の高血圧 
  • 未治療の高血圧(150/100mmHg以上)
  • 副腎腫瘍の合併
  • 若年での脳卒中発症
  • 睡眠時無呼吸症候群の合併 など

スクリーニング検査の判定基準

血液検査で血漿アルドステロン濃度(PAC)および血漿レニン活性(PRA)を測定し、その結果を判定します。(文献5)

  • PAC/PRA(ARR)≧ 200   かつ PAC ≧ 60 pg/mL →陽性
  • PAC/PRA(ARR)100~200 かつ PAC ≧ 60 pg/mL →暫定陽性
  ※暫定陽性例では、臨床所見に基づいて機能確認検査の実施を個別に検討します。 

PACとPRAは使用中の降圧薬の影響を受ける可能性があるため、検査前に降圧薬を影響の少ないカルシウム拮抗薬やα遮断薬に変更してから行うことが推奨されています。しかし薬を変更できない場合はそのままで検査を行うこともあります。

機能確認検査(負荷試験)

スクリーニング検査で原発性アルドステロン症が疑われた場合は、機能を確認する検査として、生理食塩水負荷試験やカプトプリル試験、蓄尿検査などを行い、アルドステロンの過剰分泌の程度を確認します。副腎腫瘍がある場合、コルチゾールの同時産生の有無を調べるため追加で検査(1mgデキサメタゾン抑制試験)を行います。

病型・局在診断

CT

副腎のCT検査では、副腎腺腫の有無や大きさを確認しますが、CTで検出できないアルドステロン産生ミクロ腺腫が存在することがあるため,最終的な病型診断には下記の副腎静脈サンプリングの実施が推奨されます。

選択的副腎静脈サンプリング(Adrenal Venous Sampling: AVS)

副腎静脈サンプリング(AVS)は、最終的な病型診断や局在診断(アルドステロンを過剰に作っている副腎が片側か両側かの診断)のために推奨される検査です。AVSでは血管造影の技術を用いてカテーテルを鼠径部の静脈から副腎静脈まで挿入します。副腎静脈から直接血液を採取し、左右の副腎からのアルドステロン分泌量を比較します。

副腎皮質シンチグラフィ

局在診断の補助として、副腎皮質シンチグラフィ(アドステロール・シンチグラフィ)を施行する場合があります。

副腎皮質シンチグラフィ

図:左の画像はCT検査。右副腎に1cmの腫瘍を認める。右の画像はシンチグラフィ検査。腫瘍に一致して131-I-アドステロールシンチグラフィの集積を認める。

原発性アルドステロン症の治療

治療方針は以下の「手術療法」と「薬物療法」に分かれます。機能確認検査と病型・局在診断の結果を踏まえて、患者さんそれぞれに最適な治療方法の検討が必要です。

手術療法

原発性アルドステロン症を呈する病変が片側性である場合、CT所見や腫瘍の大きさに関わらず副腎摘出術が行われます。手術によりアルドステロン過剰や低カリウム血症を治癒あるいは改善させることができます。通常、手術療法の第一選択は腹腔鏡手術です。 

薬物療法

両側性の場合や、手術適応や手術の希望がない場合には、アルドステロン受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノンなど)の飲み薬が使用されます。 

内分泌・副腎腫瘍センター(国立国際医療研究センター病院)の診療

内分泌・副腎腫瘍センターでは、内分泌内科、放射線科、泌尿器科と連携し、患者さんの臨床所見、ニーズに合わせた迅速かつ最適な治療を提供しています。
当院内分泌内科では初回のスクリーニング段階から対応することが可能ですので、対象と判断された時点で、まずは当センターまでお気軽にご相談ください。必要に応じて、機能確認検査目的の検査入院や、放射線科と連携した副腎静脈サンプリングの入院を提案します。手術療法が適応の場合、泌尿器科が担当します。

関連リンク

参考文献

  1. Funder, John W et al. “The Management of Primary Aldosteronism: Case Detection, Diagnosis, and Treatment: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline.” The Journal of clinical endocrinology and metabolism vol. 101,5 (2016): 1889-916. doi:10.1210/jc.2015-4061
  2. Savard, Sébastien et al. “Cardiovascular complications associated with primary aldosteronism: a controlled cross-sectional study.” Hypertension (Dallas, Tex. : 1979) vol. 62,2 (2013): 331-6. doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.113.01060
  3. Ohno, Youichi et al. “Prevalence of Cardiovascular Disease and Its Risk Factors in Primary Aldosteronism: A Multicenter Study in Japan.” Hypertension (Dallas, Tex. : 1979) vol. 71,3 (2018): 530-537. doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.117.10263
  4. Monticone, Silvia et al. “Cardiovascular events and target organ damage in primary aldosteronism compared with essential hypertension: a systematic review and meta-analysis.” The lancet. Diabetes & endocrinology vol. 6,1 (2018): 41-50. doi:10.1016/S2213-8587(17)30319-4
  5. 一般社団法人 日本内分泌学会「原発性アルドステロン症診療ガイドライン策定と診療水準向上」委員会.原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021